審査請求での却下、棄却、認容裁決とは|意味と分かりやすい覚え方
裁決の種類
裁決は、審査庁としての審査請求に対する最終的な結論であり、①却下、②棄却、③認容に大別されます。
(1) 却下裁決
却下裁決は、審査請求が不適法である場合になされるものであり(処分については法45条1項、不作為については法49条1項)、審査庁が内容の審理を行わずに、いわゆる門前払いを行う判断です。
「審査請求が不適法である」とは、審査請求の対象とならない行為を対象としている、不服申立人適格を有さない(自己の法律上の利益に関係のない処分を対象としている場合等)、審査請求期間を徒過している、審査請求の目的が消滅している(処分がすでに取り消されている場合等)など、形式的な要件を欠く状態です。
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審査請求が不適法であることが明らかな場合には、審査庁は、法28条から42条までに定める審理手続を経ないで却下裁決をすることができますが(法24条)、審査請求の対象となる行為が行政処分か否かに争いがある場合など、審査請求の適法性自体が争点となっており、そのことについて審理をしなければ判断できないような場合には、審理手続を経た上で却下裁決を行います。
(2) 棄却裁決
処分についての審査請求
処分についての審査請求に理由がない場合、つまり、審査請求に係る処分が違法又は不当のいずれでもないと認められる場合には、審査庁は棄却裁決を行います(法45条2項)。
ただし、処分が違法又は不当であっても、これを取消し、又は撤廃することにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、審査請求人が受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上で、処分を取り消し、又は撤廃することが公共の福祉に適合しないと認めるときは、審査庁は、裁決の主文で違法又は不当であることを宣言した上で、当該審査請求を棄却することができます(法45条3項。いわゆる事情裁決)。
不作為についての審査請求
不作為についての審査請求に理由がない場合、つまり、当該不作為について、「相当な期間」を経過していることに正当な理由があり、当該不作為が違法又は不当のいずれでもないと認められる場合には、審査庁は棄却裁決を行います(法49条2項)。
(3) 認容裁決
処分(事実上の行為を除く)についての審査請求
ア 処分(事実上の行為を除く)についての審査請求に理由がある場合、つまり、処分が違法又は不当であると認められる場合には、審査庁は、裁決で、当該処分の全部若しくは一部を取消し、又はこれを変更します(法46条1項)。
ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合(建築審査会が審査庁となる場合等)には、当該処分を変更することはできません(同項ただし書)。
イ 上記のうち、「申請を却下し、又は棄却する処分」の全部若しくは一部を取り消す場合において、(却下・棄却処分を取り消すだけでなく)申請に対する何らかの処分をすべきと認めるときには、下記の審査庁は、却下・棄却処分の取消しに加えて、次の措置を行います(同条2項)。
(ア) 審査庁が処分庁の上級行政庁の場合(1号)
処分庁に対して当該処分をすべき旨を命じること
(イ) 審査庁=処分庁の場合(2号)
当該処分をすること
例えば、公文書開示請求に対する全部非開示決定を対象にした審査請求について、審査庁(=処分庁)が、一部開示決定をすべきと認めるときは、全部非開示決定の取消しに加えて、一部開示決定を行う措置を行います。
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事実上の行為についての審査請求
事実上の行為についての審査請求に理由がある場合、つまり、事実上の行為が、違法又は不当であると認められる場合には、審査庁は、裁決で、当該事実上の行為が違法又は不当である旨を宣言するとともに、次の措置をとります(法47条)。
(ア) 審査庁≠処分庁の場合(1号)
処分庁に対し、当該事実上の行為の全部若しくは一部を撤廃し(※)、又はこれを変更すべき旨を命じること(変更を命じられるのは上級行政庁の場合のみ(同条ただし書))
(イ) 審査庁=処分庁の場合(2号)
事実上の行為の全部若しくは一部を撤廃し、又はこれを変更すること
(※ 「撤廃」とは、人身の拘束を解く、留置物件を返還するといったように、当該事実上の行為を物理的にやめることを意味します。公権力の行使に当たる事実上の行為については、狭義の処分と異なり、法律効果を生ずるものでないことから、「取消し」ではなく「撤廃」とされています。)
不作為についての審査請求
不作為についての審査請求に理由がある場合、つまり、当該不作為に係る申請から相当の期間が経過し、かつ、そのことを正当化する特段の事由も認められない場合は、審査庁は、当該不作為が違法又は不当である旨を宣言します(法49条3項前段)。
加えて、下記の審査庁は、当該申請に対して一定の処分を行うべきものと認めるときは、次の措置をとります(同項後段)。
(ア) 審査庁が不作為庁の上級行政庁の場合(1号)
不作為庁に対し、当該処分をすべき旨を命じること
(イ) 審査庁=不作為庁の場合(2号)
当該処分をすること
裁決後の対応
(1) 裁決の効力発生時期
裁決の効力は、一般には、審査請求人に裁決書の謄本が送達されたときに生じます。
ただし、処分の相手方以外の者のした審査請求について認容する裁決をするときは、審査請求人及び処分の相手方の両者に送達されたときに、裁決の効力を生じます(法51条1項)。
(2) 裁決の効力
ア 処分に係る審査請求において当該処分の全部若しくは一部を取消し又はこれを変更する裁決がなされた場合(法46条1項)、取消しや変更の効力は、裁決の効力発生によって生じます。改めて行政処分を行う必要はありません。
ただし、処分をすることを命じる措置や(法46条2項1号、法49条3項1号)、処分を行う措置(法46条2項2号、法49条3項2号)は、裁決書に書かれたことによって効力を生じるものではなく、審査庁は、裁決とは別に、処分庁等に何らかの処分等をすることを命じ、あるいは処分庁等として自ら処分を行う必要があります。
イ 裁決は、関係行政庁を拘束します(法52条1項)。
申請に基づいて行った処分が裁決で取り消された場合、申請に対する回答がなされていない状態に戻ります。処分庁は、裁決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければなりません。
裁決において違法・不当とされて取り消された処分について、同じ理由で同じ処分を繰り返すようなことは許されません(同条2項)。
ウ 審査庁から、何らかの処分をすべきこと等を命じられたとき(法46条2項1号、法49条3項1号)は、処分庁は、それに従って処分等を行わなければなりません。
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