「こと、事」「わけ、訳」等の使い分け方|公用文の漢字と平仮名の違い
公用文においては実質的が意味がない「形式名詞」は平仮名で表記します。
形式名詞は、「こと」「とおり」「ため」「わけ」「とき」「ところ」「もの」「わけ」等がありますが、基本的に平仮名で表記します。
ただし、普通の名詞のときは漢字で書くので、使い分けに注意が必要です。
以下、それぞれ例文を挙げながら解説します。
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形式名詞と普通名詞の違い
形式名詞とは、名詞のうち、本来の意味を失って形式的に用いられ、修飾語がなければ独立した意味を持ち得ないものいいます。例えば、「こと」で説明すれば次のような違いがあります。
(普通名詞)大変な事が起きた。「事態・事件」
(形式名詞)許可しないことがある。
名詞の「こと」は、本来「事態・事件」の用法で「事」そのものが一定の独立した意味を持っています。
これは「普通名詞」(実質的意味の名詞)であって、常用漢字であるかぎり、漢字で書くことになります。
しかし、「許可しないことがある」の「こと」は、そもそも「実質的意味の名詞」の意味はなく、「許可しない」などの修飾語がついて初めて意味を成します。
そこで、本来の意味の普通名詞と区別するため、誤読を避けるために平仮名で書くことになっています。
このように本来の意味を失って、他の意味に転じた名詞を「形式名詞」といいますが、公用文では特に多用されます。
こと(許可しないことがある。)
ため(病気のため欠席する。)
とおり(次のとおりである。)
とき(事故のときは連絡する。)
ところ(現在のところ差し支えない。)
もの(正しいものを認める)
ゆえ(一部の反対のゆえはかどらない。)
わけ(賛成するわけにはいかない)
※「ため」以外は、普通の名詞の場合は漢字で書く(例:「大変な事が起きた」というような「事態・事件」の意味のとき)
「こと、事」の使い分け方
普通名詞の「事」は、「事象・現象・事態・事件・行為・行事」など、全て「具体的な事柄」を言う場合に漢字で書きます。
これに対し、形式名詞の「こと」は、抽象的な事柄を表す場合、活用する語の連体形に付いて名詞化する場合、文末に添えて約束や間接的な命令を表す場合などに用いられます。
そのため以下のような例で、漢字と平仮名を使い分けます。
例文
・大変な事が起きた。事あるときは。見付かったら事だ。事に当たって。本当の事。(事態・事件)
・そういうことだ。書くことができる。実施することになりました。走らないこと。(形式名詞)
「わけ、訳」の使い分け方
意味、道理、理由などの意味で用いられる普通名詞の「訳」は、「良い訳」のように漢字で書きます。
一方、形式名詞の「わけ」は「~わけである」「~わけだ」という形で、帰結として「当然そうである、そうなった」ということを表す意味で用いられ、平仮名で書きます。
また形式名詞の「わけ」は、動詞の連体形に付いて「~するわけではない」「~わけにはいかない」という形で、帰結として「当然否定されるべきである」ということを表す意味でも用いられ、この用法でも平仮名で書きます。
例文
わけ・・・否定するわけではない。希望がかなったというわけだ。受け取るわけにはいかない。
訳・・・それには訳がある。訳あって。訳もなく。訳の分からない話。訳の分かる人。
「とき、時」の使い分け方
「とき」を、漢字で「時」と書くか、平仮名で「とき」と書くかは、意味の違いで使い分けます。
普通名詞の「時」は、時間の流れの中にある、その時代、その時期、その時間など本来の意味の「実質名詞」として用いる場合に漢字で書きます。
これに対して、「とき」は、「場合」と同じ意味で条件を表す「形式名詞」として用いる場合に平仮名で書きます。
つまり「とき」は、時点の「時」と、条件の「とき」で使い分けます。
とはいえ、実務的には「時」を用いるのは「その時」(時刻)を強調する必要がある場合に限られます。
そのため「時点」と「条件」の意味合いを兼ね合わせているようなときは「とき」と平仮名で書きます。
例文
・攻撃を受けた時は、その町に誰もいなかった。時を知らせる。時が解決する。時の流れ。実施の時が来た。(時点)
・公印を使用するときは、庶務係へ決裁書を回してください。(条件・時点)
ちなみに、条件を表すときは「とき」の他「場合」を用いることもできます。
「とき」と「場合」の使い分けに公式ルールはなく、どちらを用いてもかまいません。
ただし、一文で両方を用いるときは、大きい前提に「場合」、小さい前提に「とき」を用います(例:この条件に該当する場合において、60歳に達したとき~)。
「ところ、所」の使い分け方
普通名詞の「所」は、場所、居所、住所、その地方、ふさわしい位置や地位など本来の意味の名詞として用いられ、漢字で書くことになっています。
これに対し、形式名詞の「ところ」は、「今出掛けるところ」というように、状態、事態、場合、限り、程度など、「場所」ではない多様な意味で用いられ、平仮名で書きます。
つまり「ところ」は、場所を意味する用例以外は平仮名で書きます。
場所を意味しているのにもかかわらず、漢字で書いていない誤りが多いので注意します。
例文
・昨日、要望書を提出したところである。知るところとなった。法律の定めるところによる。
・私の所にもチラシが届いた。人の住むところ。役所のある所。所言葉。所を得る。
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